麻雀について、面白いコラムを見つけたので

(以下内容)

なぜ麻雀は世界で人気となったのか、その歴史と未来、「麻雀には懐の深さがある」と歴史学者

 中国生まれの麻雀は、今や世界中に広がり、その土地の文化に根を下ろしている。米国では、アジア系移民家族の娯楽というイメージが強かったが、アジア系に限らず、麻雀は様々な社会的少数派の人々が安心して集まれる場を提供してきた。

 米国では反中感情が高まっていた頃でも、麻雀だけは爆発的人気を獲得していた。あるいはロシアでは、2012年に33時間以上に及ぶ世界一長い麻雀の試合が行われ、ギネスの世界記録に認定されている。
ところが中国では、20世紀半ばに資本主義の腐敗と結び付けられ、麻雀は40年以上も禁止されていた。

 麻雀は、どのようにして多様な文化に受け入れられ、人気を得ていったのだろうか。その歴史を振り返ってみよう。


コミュニティをつくりやすい「リズム」

 麻雀には、運と腕の両方が求められる。4人のプレイヤーで行われ、使用される牌には、いかにも中国らしい文字や絵が刻まれている。
数牌(すうぱい)と呼ばれる牌に描かれている竹のような絵と円の模様は、いずれも古代中国の貨幣を表している。字牌の三元牌は古代の弓道を象徴し、花牌には「四君子」と呼ばれる梅・蘭・菊・竹が描かれている。

 ベストセラーとなった『Mahjong: A Chinese Game and the Making of Modern American Culture(麻雀:中国遊戯と現代アメリカ文化の形成)』の著者で、米オレゴン大学の歴史学者であるアネリーズ・ハインツ氏によれば、麻雀には世界で40種類以上の異なる遊び方があるという。しかし、牌の素材や基本的なデザインは共通だ。

 麻雀のリズムは、特にコミュニティの形成に適していると、ハインツ氏は指摘する。
ポーカーゲームの場合、ゲームとゲームの間にトランプをシャッフルする時間が数秒間挟まれるだけだが、麻雀は、1回終わるごとに牌を並べ直すためにある程度時間がかかる。その間にプレイヤー同士で会話が弾み、親睦を深めることができる。

 運が勝利の鍵を握る麻雀には、迷信が多い。たとえば、プレイヤーの肩を叩くのはタブーとされている。連勝に水を差すと考えられているためだ。
また、負けが続いたら、トイレに立てば悪い運を流すことができる。さらに中国では、「本」と「負ける」という中国語の発音が全く同じであることから、麻雀卓に本を持ち込むことは禁じられている。
そして、一巡目に「西(シー、日本では「シャー」と発音)」と書かれた牌を4人が連続して捨てると、「四」人全員に「死」が訪れると言われている。

 オーストラリアのビクトリア大学で心理学の上席講師を務める大塚啓輔氏は、麻雀のギャンブル認知を研究し、興味深いことに、麻雀をする際に迷信を信じる人ほどギャンブル依存症になりやすいことを発見した。

「ポーカーと比べると、麻雀は技術よりも運に頼ることが多いゲームです。そして、その運が人の運命の基盤を成していると考える人が、麻雀のギャンブル性に引かれる傾向にあります」


麻雀の誕生から米国で人気となるまで

 麻雀は、19世紀半ば、清王朝の終わり頃に今の中国南部で誕生した。当時、麻雀以外にも主に男性向けのギャンブルが中国には数多く存在していたと、ハインツ氏は言う。
「麻雀」という言葉は、中国南部の方言で「スズメ」を意味する。牌を混ぜるときに牌同士が当たる音がスズメの鳴き声に似ているからというのが由来らしい。中国古来のカードゲーム「馬弔(マーディアオ)」が起源であるという説もある。

「麻雀には懐の深さがあります」とハインツ氏は言う。「ポーカーにはギャンブル性が欠かせませんし、ブリッジは反対にギャンブルの要素がほぼありません。
しかし麻雀の場合、非常に高い金額を賭けることもあれば、わずかしか賭けないこともあります。また、お金が全く関わらなくても楽しめます。このようなゲームは珍しいです」

 1920年代初めに、米国人実業家のジョセフ・P・バブコックが麻雀セットを米国に持ち込むと、全米がこの新しいゲームに夢中になった。
このことは、当時の米国におけるジェンダーの変化や文化的変化を反映していると、ハインツ氏は話す。「百の知性のゲーム」「天からの贈り物」などといった宣伝文句とともに、ニューヨーク市の「アバクロンビー・アンド・フィッチ」の店舗で初めて売り出された輸入麻雀セットは、あっという間に完売した。

 麻雀は、特に社交界の裕福な既婚女性たちの間で人気を博した。チャイナドレスに身を包み、中国語の単語を交えて遊びに興じるという女性的な異国情緒が魅力的に映ったのだ。
しかしその一方で、当時の米国では反移民感情が高まり、アジア系移民に対する制限が厳しくなるなか、明らかに中国のものだとわかるゲームが爆発的人気を得ていたのは皮肉なことだと、ハインツ氏は言う。第二次世界大戦中、麻雀は「新たな黄禍」と呼ばれたこともあった。

 それでも麻雀人気が衰えなかった理由は、麻雀の販売会社が「数千年前の古代中国の宮廷で楽しまれていた遊戯」という誤った宣伝をしていたためであると、ハインツ氏は指摘する(麻雀を発明したのは孔子だという有名な説があったが、今では否定されている)。

「この起源神話が広く知れ渡ったことで、販売会社は現代の中国系移民と麻雀を切り離し、上流階級の優雅な遊びというイメージを作り上げることに成功しました」


麻雀の今とこれから

 米国で、麻雀はここ100年ほどの間に中国系移民という枠をはるかに超えて、定番のゲームの一つとして認識されるようになった。
北部や北西部の都市に住むアフリカ系米国人女性や、郊外に住むユダヤ系女性(1937年、彼女たちによってナショナル麻雀連盟(NMJL)が誕生した)、第二次世界大戦中に強制収容所に入れられていた日系人など、社会的少数派の人々が集まって麻雀で遊び、コミュニティが築かれた。
白人の間では、「狂騒の1920年代」が終わる頃には熱が冷めていたが、中国系やユダヤ系の間ではその後も、家族が一緒に楽しめる娯楽として次世代に受け継がれていった。

 最近では、2018年にヒットした映画『クレイジー・リッチ!』で、麻雀をする場面が物語の重要な転換点となったことから、若いアジア系米国人の間で麻雀に再び注目が集まっている。一方、日本ではチームによるプロリーグ戦であるMリーグが同年に開幕し、人気を集めている。

 過去100年間、急速に移り変わる文化のなかで、麻雀は根強い人気を維持してきた。

 ハインツ氏は言う。「このことは、これからもアイデンティティの構築とコミュニティの形成に麻雀が貢献し続けていくだろうという希望を私たちに与えてくれています」
文=CLAIRE WANG/訳=荒井ハンナ

(以上引用:Yahoo!ニュース「ナショナルジオグラフィック日本語版」