ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手に、右肘靭帯の損傷が見つかり、今季投手として出場しないことが明らかとなりました。

「投手・大谷」の生命線とも言える利き腕の故障発覚に、現地メディアやファンは騒然。

エンゼルス球団の管理体制に猛烈な批判が集中する事態となりました。

確かに大谷選手は、今季これまで2試合しか完全休養をしておらず、その疲労過多に警笛を鳴らす意見も散見されていました。

果たして大谷選手の怪我の原因は一体何だったのか?避けようと思えば避けられたのか?

ネット上では様々な声が寄せられ、その議論はいまだ収まるところを知りません。


◆自身ワーストとなる26球での緊急降板も直後の試合では二塁打

現地8月23日大谷選手は、本拠地で行われたシンシナティ・レッズとのダブルヘッダー第1試合において、「2番・投手兼DH」で先発出場。

1回表のレッズの攻撃を三者凡退で切り抜け、その裏には打者として自らを援護します。

初回無死一塁の第1打席、大谷選手は、相手先発のアンドルー・アボット投手の初球をジャストミート。

打球速度115・7マイル(時速約186・2キロ)、飛距離442フィート(約134・7メートル)の、打った瞬間それとわかる第44号先制2ランを放ちます。

大歓声に包まれながらダイヤモンドを1周した大谷選手は、恒例の兜セレブレーションもハイタッチもスルーして、その代役を通訳の水原一平氏に譲り、即座に投球の準備に入ります。

先発登板して勝利を上げた6月27日の対ホワイトソックス戦と全く同じ流れに、この日の大谷選手の大活躍を誰もが確信していました。

しかしその直後、「投手・大谷」に異変が起こります。
2回表、1死一塁の場面で、エンカーナシオン・ストランド選手に5球目を投げたところで、ベンチに向かって首を振り、不調を訴えます。

慌ててフィル・ネビン監督とトレーナー、そして水原通訳がマウンドに駆け寄り、いくつかやり取りがあった後、大谷選手は結局マウンドをあとにしました。

自身ワーストとなる26球での緊急降板。
さらにその後の打席でも代打を送られ、完全に試合からも退くこととなりました。

大谷選手は8月9日の対サンフランシスコ・ジャイアンツ戦で6回97球を投げて勝利をあげた後、疲労を理由に次の登板を回避。

この日のレッズ戦は、回復した大谷選手本来のピッチングが見られると、ファンも期待を寄せていました。

試合後、球団から「腕の疲労によるもの」と発表があり、ネビン監督からは

「(大谷から)痛みはないが、腕に違和感があると伝えられた」

と現在患部の検査をしていることも明かされました。

しかしその後、ダブルヘッダー第2試合にも大谷選手は「2番・DH」でスタメン出場。

第1、第2打席こそ凡退しましたが、5回裏の第3打席には、右翼線に二塁打を放ち、健在ぶりをアピール。

塁上ではレッズのエリー・デラクルーズ選手らに囲まれ、にこやかにコミュニケーションを図る様がSNSでも拡散されました。

今回の腕の不調も、8月に入って度々起こしている「疲労や痙攣のたぐい」だろうとファンもほっと胸をなでおろしていました。

しかし...


◆右肘じん帯損傷が発覚「ショウヘイは今季投げることはない」

第2試合終了後、エンゼルスのペリー・ミナシアンGMが会見を開き冒頭で

「ショウヘイは今季投げることはない」

と衝撃の発言。

会見の中で、ミナシアンGMは時折言葉をつまらせながら

「ショウヘイは(ダブルヘッダー1戦目の)試合で交代し、1戦目と2戦目の間にMRI検査を行った。
損傷が見つかり、今季はもう投球はしない。セカンドオピニオンを仰ぎ、そこから判断するが、Day-to-dayだ。そういう状況だ」

と、この日起こってしまった最悪の事態を言葉を選びながら伝えました。

記者からの「UCL(肘靭帯)の損傷か?」との質問には

「その通りだ。プランや詳細はまだ分からない。代理人には連絡し、第2戦では打者として出場した。
落胆しているし、彼を気の毒に思う。受け入れるしかないし、まだバウンスバックできる」

と今回の怪我の箇所が投手の生命線である「肘靭帯」であることを明かしました。

また同GMは、大谷選手が第2試合に出場する前に靭帯損傷のことを知っていたことにも触れ

「彼はプロだ。これまで違った反応をする選手も見てきたが、彼は心をかき乱されてはいなかった。
“今夜もプレーしていいのか?今夜もプレーしたい”と言った。
彼は精神的に強い。だから彼のようなことができる。彼があのように反応し、プレーしたという事実は凄いことだ」

と第2試合出場の背景を語りました。

この日のミナシアンGMの会見をまとめると以下のとおりです。

・大谷選手の右肘に靭帯の損傷が見つかったこと
・そのため今季は大谷選手は登板しないこと
・痛みなどの兆候は大谷選手側から何もみられなかったこと
・その為この時まで精密検査をしていなかったこと
・肘の損傷の程度や手術の必要性は不明であること
・今後打者として出場を続けるが、それもセカンドオピニオン次第であること

今季投打において圧倒的なパフォーマンスを披露し、自身二度目のMVPも確実視されていた大谷選手。

その二刀流プレーの継続に暗雲が立ち込めることとなってしまいました。


◆バーランダー氏怒りの猛批判「エンゼルスはオオタニを裏切った」

唯一無二の二刀流スター「大谷翔平」の利き腕の怪我という最悪の事態に、ネット上ではエンゼルスへのバッシングが相次いで寄せられました。

そんなファンの言葉を代弁するかのように激昂したのが、熱烈な大谷マニアで知られる米スポーツアナリスト、ベン・バーランダー氏です。

同氏はエンゼルスの管理体制を猛批判。

「野球界にとって悲しい日だ。心が張り裂けそうだし怒っている」

と自信の胸中を明かしたバーランダー氏は

「エンゼルスはショウヘイを利用できるだけ最大限利用し、持っている価値全てを絞り出させた。
彼が疲労や痙攣がありながらも出場を続けて数か月が経つ。そのたびに球団からは『疲労だ』と伝えられてきた。
違う。彼の体は我々の目の前でボロボロになっていたんだ」

と最悪の結果となった原因は球団にあると主張。

「誰でも見れば分かったことだ!もし疲労だけだとしても、なぜ中5、6日で登板させ続けるんだ!回復させる時間を彼に与えないと」

と疲労の兆候が表層化しても休養を与えなかったエンゼルス首脳陣の見通しの甘さを猛批判しました。

「彼はエンゼルスのために体が言うことを聞く限りの全てを出し切った。
誰かが彼を彼自身から守ってやらなければならなかったんだ!
史上最高のアスリートは『ちょっと時間が必要だから』なんてやらないんだよ。彼らの脳みそはそんな風には働いていないんだ」

さらにバーランダー氏は

「二刀流の選手を普通と同じように扱ってはいけないんだ。複数のサインを無視してはならない。
痙攣にマメに疲労、彼の体は何かが変だと訴えているんだよ!
ブレーキを踏んで彼を少し休ませるんだ。彼が大丈夫と言ったからといって中5、6日で登板させるんじゃない。
彼は、体は疲れているが今は休みを取れないと言っていた。エンゼルスはそれでよかったんだ」

と二刀流の特殊性についても触れ

「エンゼルスにはショウヘイ・オオタニの将来を考える義務がある。
しかし、彼らはそれをやらなかった。エンゼルスはショウヘイ・オオタニを裏切り、ファンを裏切り、MLBを裏切ったのだ」

と終始その怒りが収まることはありませんでした。

バーランダー氏の怒りの言葉にファンも賛同。

あまりの出来事にファンもどうしていいのか分からず、その拳のおろしどころを球団に向けるしかなかったのです。


◆爪の割れ、マメ、痙攣…体は悲鳴を上げていた?

ミナシアンGMが会見でも明かした通り、この日まで大谷選手は腕や肘の痛みや不調を訴えることはありませんでした。

一方で、オールスター戦明けから8月にかけて、腰やふくらはぎ、右手指と複数の箇所で痙攣を引き起こすようになっていました。

今季大谷選手は、3月のWBC大会からほぼ休みなくレギュラーシーズン入り。

4月5月6月と投打においてフル回転し、MVPを受賞した2021年、投打において成長を見せた2022年をさらに超えるパフォーマンスを披露していました。

6月27日には右手中指の爪の影響で降板しましたが、その後の打席で本塁打を放ちました。

7月4日の対パドレス戦、7月14日の対アストロズ戦でも爪とマメの影響で5回降板し、負け投手となりましたが、その後の7月21日の対パイレーツ戦では勝利投手となっています。

さらに7月27日のタイガースとのダブルヘッダーでは、1試合目に自身初となる完封勝利をあげ、さらにその直後の第2試合では2打席連続で本塁打を放ちました。

誰もが大谷選手の大活躍に酔いしれていたのです。

一方で、2本塁打目を放った時点で左脇腹の痙攣を起こし、次の打席では代打を送られていました。

翌日のブルージェイズ戦でも第1打席に3打席連続となる本塁打を放った後、ふくらはぎの痙攣でベンチに下がっていました。

また、リアル二刀流登板した8月3日の対マリナーズ戦では、右手中指の痙攣を理由に4回59球で降板。

このあたりから、「さすがに休養を取るべきでは?」という意見が各方面から出始めます。

思い返せば大谷選手も、この時期から「疲労」という言葉を発するようになっていました。

右手中指の痙攣で降板となったマリナーズ戦では

「一番は疲労じゃないかと思います」

と度重なる痙攣の理由を説明。

これまであえて使ってなかった、「疲労」という単語が大谷選手から出たことに、ファンや識者から心配の声も上がっていました。

さらに10勝目を上げた8月9日の対ジャイアンツ戦では

「疲労はみんなピークぐらいじゃないかなと思う。連戦の最後というのもありますし、また明日、休みを挟んで(体が)どんな感じなのか確認しながら、もちろん、休みが必要なら休むことも仕事として大事」

と休養についても触れていました。

ジョー・マドン前エンゼルス監督は、投打でフル回転する二刀流スターの疲労蓄積を危惧する意見を述べています。

「私が監督を務めていたときは、彼の方から休養日を指定してもらうやり方だった。彼は足の状態で決めると言っていた。
直近2年間の仕事量は、現役を含めた過去のどんなメジャーリーガーと比べても全く違うものだ」

と前年までの休養スケジュールについて説明。

基本的には大谷選手主導で休養日を設けていたとしながらも

「去年、彼の状態を見て私から休養を命じたことが2回あった。疲れが溜まっているように見えた。ショーの場合、綿密に計画したプランを提示すれば受け入れてくれると思う」

とマドン前監督側から休むよう指示していたことも明かしました。

たしかに大谷選手は「休みたがらない」ことでもよく知られており、本人が不調や故障を申し出なければ、休ませにくかったことも事実です。

マドン前監督は

「私だったら、移動日の前日か翌日を休養日に充てる。そうすれば2連休を与えることができる。
対戦投手のことも考慮しながら決めて、『潜在的な怪我を抑止する。そしてフレッシュな状態でプレーできる』と彼にプレゼンする」

と大谷選手への休養の提案の方法についても説明しました。

ただ、プレーオフ争いから大きく遠ざかっていた昨年までと、今季は状況が違います。

さらにその大事な時期にマイク・トラウト選手ら主力選手が怪我で離脱していました。

結局は、このマドン前監督の危惧が残念ながら的中する結果となってしまいました。

エンゼルスの地元メディア『ロサンゼルス・タイムズ』紙も

「エンゼルスは大谷翔平の将来を変える悲惨なけがから守ることに失敗した」との見出しで記事を掲載。エンゼルスを猛批判しました。

同メディアは

「オオタニが望んだ二刀流の実現をエンゼルスは止められず、自由にやらせたが、これが今回の故障に影響した可能性がある」

と指摘。

また、ミナシアンGMが今回の故障の可能性について「全く疑念を持っていなかった」と語ったことについても

「いまとなっては、エンゼルスは彼のプレーと勝利への欲求が、他のあらゆる本能よりも勝っていることを理解したことだろう」

と皮肉を交えて批判しました。

この『ロサンゼルス・タイムズ』紙を含め、多くの現地メディアが

「もっと球団側から大谷選手に積極的に関わって、例え大谷選手が気に入らなくても、無理にでも休ませるべきだった」

とバーランダー氏やマドン前監督と同様の主張を展開しています。

ネット上でも、大谷選手のコンディションをコントロールできなかった球団への批判の声が数多く寄せられました。


◆予兆は6月から?爪やマメをかばって投げたことも悪影響

一般に投手の利き腕の靭帯損傷は「投げすぎ」が原因と言われています。

確かにWBCで登板した分、今季の大谷選手は投球数が嵩んでいましたが、それでも100球を超えて投げた試合は数えるほどしかありませんし、中5〜6日登板間隔を開けていました。

その一方で、登板のない日も指名打者として出続けており、大谷選手の体が休まることはありませんでした。

多くのファンや識者が疲労過多を指摘する中で、元マリナーズの佐々木主浩氏は、爪やマメによる降板時から「万全な体調となるまで登板を回避するべき」と主張していました。

佐々木氏は

「右手の爪が割れた時、かばって、他の部位もけがすることを危惧していた。必ず、どこかに負担がかかる。やはり、万全でない時には投げるべきでない」

と爪やマメを気にしたまま投球を続けると、フォームが崩れたり、違う箇所に悪い影響が出かねないとしています。

サンディエゴ・パドレスのダルビッシュ有投手も、6月末の爪割れのころから、予兆を感じていたとしています。

大谷選手の肘靭帯の故障が発表された日の夜、ダルビッシュ投手は音声プラットフォーム『stand.fm』を更新。

「(6月の爪の時から)もう何かあったんだろうなと僕は思った」

ダルビッシュ投手は、球速低下や何かをかばうような体の動きから、爪だけの問題ではないと感じていたと言います。

「この前も腕の疲労がどうとか話が出てスキップした時も、肘なんじゃないかなと僕はずっと思ってたんですよ。
やっぱり、本人はそういう所が痛い時でも言わないから。今までの大谷くんのメディアへの発言をみてても」

と、これまでの大谷選手からすると異例とも言える登板飛ばしから、ただならぬ異変を感じ取っていたことを明かしました。

2015年に右肘靭帯の損傷でトミー・ジョン手術を受けた経験のあるダルビッシュ投手は

「投げても痛くはないんだけど、(上腕三頭筋の周辺が)気持ち悪いし腕を振れない状態だった」

と自身の経験を交え、レッズ戦の大谷選手も、痛みなどの自覚のないままマウンドに上がったのではないか?と推察しました。

大谷選手はメジャーデビューの2018年秋にトミー・ジョン手術を受けており、もし今回手術が必要となると、2度めとなります。

ダルビッシュ投手は、過去に2度トミー・ジョン手術を受けてなお活躍することは、1度だけの投手と比べると相当難しいとしながらも

「ただ大谷選手は体も強いですし、栄養もちゃんとしてますから、その辺は他の人とは過ごし方が多分違うと思うので、長いこと元気に投げられる可能性はあると僕は思います。他の人より確率は高いんじゃないかな」

と大谷選手の復活にエールを送りました。

また、誰もが気になる「二刀流プレー」の継続についても

「僕は不可能とは全く思わない。扱いは難しくなるものの、中7日など間隔を空けられるのであれば、先発でも『まだ行ける』と思う」

と私見を述べました。


◆自己責任?エンゼルスだからこそあったWBCでの活躍と二刀流の実現

脇腹、ふくらはぎ、右手中指と度重なる痙攣。

確かに今季の大谷選手の疲労過多は、これまでのキャリアの中では見られなかったことです。

しかし、疲労=肘靭帯の損傷については、医学的な証明もされていませんし、自覚症状があったかどうかも含め、大谷選手が痛みについて主張したことはありませんでした。

ネビン監督も大谷選手の自己管理能力に絶大の信頼を寄せており、球団側も大谷選手を一人のプロフェッショナルとして扱っていました。

そういう意味で、必要以上に球団への責任追及をするべきではないという声も上がっています。

「あの時休んでいたらって思わなくもないけど球団を責めても仕方ない。大谷さん本人も望んで出場してたはずだし」

「ネビンやミナシアンを責めてる人もいるけど休みに関しては本人が試合に出ると言ってきたんだから仕方ないよな。
健康なら毎年MVP獲れるような選手で大事なFAも控えてたのに、優勝したいからって理由でWBC出場決める性格だから周りが何を言っても大谷本人が決めたことは変えられない」

「エンゼルスでなければできなかったことも少なからずあります。
WBCに出場させてくれたことも、決勝で登板を許してくれたことも、遡ればこれほど二刀流に寛容な球団も他にないんじゃないかと思います」

「全て結果論ですし、休ませていたとしてもいずれはこうなっていたことも考えられます。
一応オールスター明けの数週間は大谷さんにとって始めてPS出場の可能性がある期間だったので、無理を承知で頑張ってしまったのかなと個人的に予想してます」

といった大谷選手による「自己責任論」を主張する声も少なくありません。

結局のところ、なぜ大谷選手が怪我をしてしまったのか?についてはこれからも完全に判明することはないと思います。

さらに言えば、今更犯人探しをしたところで、大谷選手が怪我をする前に遡ることはできません。

一つわかっていることは、これからも大谷選手は世界一の野球選手になるために努力し続けるということです。

今季投手としてのプレーは終了してしまいましたが、大谷選手はシーズン終了まで一本でも多くヒットを、ホームランを打とうと、可能な限り打席に立ち続けることでしょう。

大谷選手の野球人生はこれまでも順風満帆だったわけではありません。

怪我や批判を乗り越え、誰もが成し得なかった数々の偉業を打ち立ててきたのです。

大谷選手なら、きっと私たちの想像を超えるバウンスバックを見せてくれるに違いありません。



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